京都大学大学院理学研究科化学専攻 京都大学理学部化学教室

menu

金相学分科

准教授 植田 浩明 助教 道岡 千城

新物質を求めて

金相学分科の研究内容は、無機固体に対するいわゆる固体化学、物性化学と言われる分野(合わせて無機固体物性化学)に属する。理化学事典によると”固体化学”とは「固体物質に関する問題を化学的に研究する物理化学の一分野。結晶性固体の合成、構造、格子欠陥の研究、非結晶性の固体、高分子物質、ガラス状物質の構造や性質の研究、気相、液相または他の固相への転移や平衡、他の相または溶液からのその結晶成長の様子や速度の研究、その固体の分解の様子、その固体中への他の物質の拡散の研究などが対象となる。」と書かれている。これらの研究に加えて、その物質の物理的性質を化学的に調べていくのが固体物性化学と言えよう。

固体物性化学の中で、我々の研究室で、現在、実際に行っている研究内容は、まず一般的に言うと、「強い電子相関を有する無機化合物の合成および物性の化学的研究」ということになる。電子相関とは、電子が物質中を運動するときに互いにクーロン反発力を感じ、お互いにさけあいながら運動する効果のことで、電子相関が強くなってくると電子は自由に動けなくなり、多くの場合局在し絶縁体になるのだが、そういったときに電子-電子を引きつけるような何らかの引力相互作用が働くと逆に金属伝導性が強まったり、特別な場合には超伝導状態が実現することがある。材料としても注目を集めている酸化物高温超伝導体はこの一例であると考えられている。また、長い間、わが国が世界をリードしてきた金属磁性体の研究や、N.F.Mott、 P.W.Andersonといったノーベル賞受賞者が理論面から精力的に研究し、実験的には我々の研究室の伝統的な研究テーマとなっている「金属-絶縁体転移」もこの分野の大きなトピックスである。

このような特異な電子物性を発生するための舞台となるのが固体の結晶構造で、図1に最近見つかった、コバルト酸化物エキゾチック超伝導体NaxCoO2yH2Oの構造を示す。

図1 三角格子コバルト酸化物超伝導体NaxCoO2yH2O(右)と母体のNaxCoO2(左)。
この化合物内で、面内で三角格子を形成するCoO2面は水分子とナトリウムイオンによって大きく隔てられている。自然界は物性化学・物性物理の研究対象である興味深い化合物のまさに宝庫といえ、図1に示したような興味ある構造を有した化合物や未知の物質も数多く存在すると考えられる。現在、本分科で研究されている物質について具体的に挙げると、図1に示したコバルト酸化物超伝導体、銅酸化物系の高温超伝導体およびその関連物質(新規二次元磁性体や伝導体となる層状化合物を含む)、低次元構造を有し特異な電気伝導性・磁性を示す遷移金属酸化物やカルコゲナイド化合物、遍歴電子(金属電子)の弱い強磁性体・反強磁性体、金属-絶縁体転移現象を示す酸化バナジウムなどの化合物系、長周期変調構造を有した化合物、それに加えて、高濃度近藤効果や重い電子系といわれる現象などを示すCeやYbという希土類元素を含む化合物に興味を持ち、固体化学的研究を行っている。こういった物性現象を明らかにして行くには、(1) 既存の化合物を丁寧に合成し化学的にマクロスコピック(電気抵抗や磁性測定)・ミクロスコピック(電子顕微鏡や核磁気共鳴)両面から調べていくこと、(2) 新物質を固相法・液相法・気相法やソフト化学的手法などの化学的手法を駆使して探索し合成していくこと、の二つの研究が二本柱であると考える。新物質の発見がその分野のブレイクスルーにつながることが多いわけだが、地味で丁寧な実験研究から思わぬ結論が出てくることもあるし新物質発見の指針が見つかることもある。この二本柱の研究の相互作用によって固体物性化学の研究が発展していくのであると考えている。

興味のある諸君は、いつでもよいから研究室に来られることを希望する。具体的な研究例や実験装置などをお見せしながら説明したい。

(最終更新日;2010年12月03日)